第五の味覚 『うま味の発見』

布だしの決め手はグルタミン酸

 食べ物のおいしさの中心となる味は五つあります。

 甘味、酸味、塩味、苦味、うま味で、それぞれの味は独立した基本的な味です。 この味とこの味を混ぜ合わせて別の味が創り出せるというものではありません。

 これら五つの味の中で、食べ物のおいしさを決定付ける大きな役割を果たして いるのがうま味です。

 1809年日本料理にとっては画期的なできごとが起こりました。 東京帝国大学の池田菊苗博士が初めて昆布の味の成分をつきとめ、その分離に成功したのです。

 池田博士は湯豆腐を食べていて、コンブだしのおいしさが、甘味、酸味、塩味、 苦味といった言葉では表現できないことに気づき、その正体が何であるかに興味を持ちました。

 研究を進めた池田博士は明治41年、このうま味の正体がグルタミン酸である ことを発見。

 つづいてうま味成分だけを結晶状に分離することにも成功しました。 その成分には、「うまい味」という意味を持つ「グルタミン酸ソーダ」の名が与えられました。

 池田博士がグルタミン酸ソーダを抽出したとき、昆布から取り出したのに昆布 以上にも感じられる、あまりのおいしさにみずから驚いたと、いうエピソードがあります。

 そしてグルタミン酸ソーダは、動物、植物のタンパク質の中のグルタミン酸を ナトリウムで中和することによって合成できることを発見したのです。

 グルタミン酸をナトリウム塩にするとうま味がひきたつことがわかり、池田博 士はその後、グルタミン酸ナトリウムの製造特許を取得しました。

 博士は、グルタミン酸ナトリウムを東京の有名料理屋で使わせたり、小説「食 道楽」の著者、村井弦斎に試食をお願いしました。

 こうして商品化されたのが調味料「味の素」です。

 コンブを大気中に放置しておくと、白い粉が吹き出していることがあります。 これはマンニットと呼ばれ、グルタミン酸を加えて上品な甘味を感じるおいし さの成分で、炭水化物の一種です。

 「うま味」という表現も、当初は日本人ならではの繊細な感覚でしか理解しに くいものとされていましたが、今は日本語の「うま味」は第五の味覚として、 国際語「UMAMI(tastiness)」に昇格しました。

 うまみは日本が世界に誇り得る、最も偉大な発見のひとつであるといえるでし ょう。

 その誇りを胸に、私たちはよりおいしいだしのとり方を、いつまでも受け継いでいきたいものです。


ルタミン酸の増えるときが「旬」

 夏の完熟したトマトがおいしいのは何故でしょう?

 それは、うま味の主成分であるグルタミン酸ナトリウムが豊富にあるからなのです。

 トマトは真っ赤に熟れていくにつれて、酸味が減り、うま味の成分が増えていくのです。

 このことから、食べ物の食べごろ、つまり旬になると味がおいしくなるのは、 うま味の本体であるグルタミン酸の総量が増加し、味覚のバランスもよくな るからだということがわかります。

 旬の時期にもうま味が関係しているのです。 また、「うま味の相乗効果」ということがいわれます。

 コンブとカツオブシの組み合わせなど、日本人は昔からいくつかのダシを合わせて使用してきました。

 これはコンブのうま味成分のグルタミン酸と、カツオブシのうま味イノシン酸 がいっしょになり、うま味効果が数倍にもなり、おいしいダシをとることができるようになるからです。

 身体を構成する成分として重要なタンパク質はグルタミン酸をはじめ、20種 類のアミノ酸からできています。 身体の中には約2〜3%の割合でグルタミン 酸が含まれていますが、海藻を食べることで、主要なタンパク源を摂取するこ とができるのです。

 ちなみにグルタミン酸で頭が良くなるという説がありますが、脳で大切な働きをするグルタミン酸は脳の中で独自に作られるので、今のところ、信ぴょう性は確認されていません。